自己盗用って何?
研究活動において、自己盗用(セルフプラギアリズム)とは、自分が以前に発表した論文や記事の一部を、新しい著作に適切に引用せずに再利用することを指します。これは、過去の研究成果を新しいものとして再発表することで、読者や査読者を誤解させ、研究の信頼性を損なう行為と見なされます。
たとえば、以前の論文の一部をそのまま使用したり、同じデータや図表を再利用したりする場合、元の出典を明示しないと、自己盗用と見なされる可能性があります。これは、研究倫理に反する行為であり、学術的不正とされることがあります。
自己盗用を避けるためには、過去の自分の研究を再利用する際にも、適切な引用や出典の明示が必要です。また、同じ内容の論文を複数のジャーナルに投稿すること(二重投稿)も、自己盗用の一形態とされ、避けるべき行為です。
研究者としての信頼性を保つためにも、自己盗用に対する理解を深め、適切な対応を心がけましょう。
どこまでが自己盗用なのか。
一方で、すべての再利用が自己盗用に該当するわけではありません。以下のようなケースは、必ずしも不正とは限りません:
- 修士論文・博士論文をもとに、内容を整理してジャーナル投稿する場合
- 学会での口頭発表・ポスター発表を下敷きに論文執筆を行う場合
- 同一テーマに関する複数の論文を、意図的に連載形式で投稿する場合
こうしたケースでは、業績の「水増し」を意図していない限り、研究の発展として正当と見なされることもあります。
とはいえ、自己盗用と受け取られかねない部分があれば、明示的に先行発表を引用し、透明性を確保しておくことが重要です。
自己盗用の指摘に備えるために
自己盗用の疑いをかけられた場合に備えて、以下の2点を心がけておくと安心です:
【ポイント①】 自身の先行研究を明示する
過去の研究内容を再利用する場合は、たとえそれが学会予稿や学位論文であっても、出典として明記することが望まれます。
ジャーナルによっては制限がある場合もありますが、引用可能な範囲で自らの先行研究を明示することで、自己盗用と見なされるリスクを下げることができます。
【ポイント②】 投稿までの検討プロセスを記録する
論文執筆や投稿に至るまでに行った判断や、査読者とのやりとりは、可能な限り文書で残しておくことが大切です。
たとえば「分割投稿を勧められた」などの指摘があった場合は、メール等での記録が証拠となります。
口頭でのやりとりであっても、後から確認メールを送っておくことで間接的な証拠となります。
また、指導教員や学内の倫理窓口にあらかじめ相談した上で、そのやり取りを記録しておくことも有効です。
自己盗用の指摘を受けたときは
自己盗用の指摘を受けたときは
自己盗用に当たるかどうかは、客観的な基準によって判断されるべきです。
指摘を受けたときは、まずその理由を冷静に確認し、自分だけで判断せず、必要に応じて専門家の意見を仰ぐことが重要です。
とくに、大学に通報される前にジャーナルへ直接通報されるケースが近年増えています。
このような場合、自主的に投稿を撤回してしまうと、かえって不利な立場に置かれることがあります。
判断を急がず、慎重に対応することが肝要です。
また、自己盗用は他者の業績の盗用と異なり、明確な「被害者」がいないため、指摘の意図や背景が見えづらいという特性があります。
そのため、残念ながら 研究者間の対立や感情的な動機による通報の手段として利用されることも少なくありません。
むすびにかえて
自己盗用の問題は、意図せず生じる場合もあります。だからこそ、日ごろから誠実に記録を残し、透明性のある執筆・投稿を心がけることが、結果として自分自身を守ることにつながります。
また、研究活動に対して真摯であろうとするほど、こうした問題に直面したときの精神的な負担は大きくなりがちです。
そうしたときこそ、冷静に、そして適切なサポートを得ながら対処することが大切です。
「これって大丈夫かな?」と感じたら、迷わず相談してください。
一人で悩む必要はありません。あなたの研究と信頼を守るために、伴走する専門家がいます。